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かかりつけ医について(連載10②)尼医ニュースより転載  弁護士からの投稿

かかりつけ医

阪神合同法律事務所  弁護士 川西 譲

これからの「かかりつけ医」についての展望

高齢者社会における「かかりつけ医」に期待されるもの

 日本は2021年現在、65歳以上の人口が占める割合である高齢化率は29.1%となり、これは世界で断トツの1位です。急速な高齢化は疾病構造が変化させ、要介護者が急増します。超高齢化時代の医師には、病気の予防や生活全体の支援が必要になり、継続的且つ診療科を越えて横断的に患者を診るとともに、必要に応じて他の専門医を紹介するなど、「かかりつけ医」の機能の強化はますます重要となっています。
 政府は高齢者が住み慣れた地域で自分らしく暮らし、人生を最後まで生き続けることができるための施策として、医療、介護、住まい、生活支援が一体的に提供できる仕組みとして地域包括ケアシステムを提唱し、その中心的な役割を担うものとして、「かかりつけ医」を位置づけています。登録をした医師に地域包括診療料、地域包括加算、小児かかりつけ医診療料などの制度を導入しているのは、このことを示しています。
 また、大病院の外来は紹介患者を中心とし、一般的な外来患者は「かかりつけ医」を受診することを基本とするシステムの普及・定着を目指し、紹介状のない患者から特別な受診時負担を徴収する制度により、大病院、中小病院、診療所の外来機能の分化を図っています。
 しかし、これらの「かかりつけ医」機能推進の諸施策についての議論は、増加する医療費の抑制、病院の機能分化、救急ベッドの削減を補完するためのかかりつけ医による「24時間対応」など、政策目的を意図した国と医療側の利害にかかわる施策の議論であり、肝心の患者を置き去りにした制度論にすぎないように思えます。
 大事なことは、高齢化時代を見据えて、高齢者に対してトータルで継続的な医療サービスを提供することのできる「かかりつけの医師像」を確立し定着させることであり、患者を主役とする「かかりつけ医」と「かかりつけ患者」との関係をしっかり構築していくかということではないでしょうか。そのためには、かかりつけ医の定義をもっと分かりやすい明確なものにすること、医師と患者の関にかかりつけ医の法的な関係性を明確にすることの必要があると考えられます。

「かかりつけ医」の定義はなく、患者との間に医療契約も存在しない

 患者にとって、「かかりつけ医」とは、一体どのような存在なのでしょうか。
 「かかりつけ医」については、オーソライズされた明確な定義も基準もなく、「かかりつけ医」を依頼する手順もなく、たとえ「かかりつけ医」を持っても、どのような医療を提供してくれるのか、かかりつけ医は、そうでない医師とどう違うのか、またかかりつけ医を持つことは患者にとってどのようなメリットがあるのか等、国民の間にはかかりつけ医についての理解が広がっているとは言えません。
 最近のことですが、新型コロナウイルスのワクチンの個別接種を「かかりつけ医」で予約を受け付けることができるようになり、接種が始まっていますが、患者が「かかりつけ医」だと思って予約しようとしたのに、医師から「私は、貴方のかかりつけ医ではない」と断られるケースが起きているという報道がありました。このことは、患者がかかりつけ医であると思っているのに、医師の方ではそう思っていないことを示しています。
 日医は「かかりつけ医」のことを「何でも相談できるうえ、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」と定義づけています。しかし、この定義は主に医師に求められる機能や資質に着目したもので、患者にしてみれば、普段自分がかかっている医師が「最新の医療情報を熟知している」のか、「専門医を紹介してくれる」のか、はたまた「総合的な能力を有している」のか知りようがなく、この定義では「かかりつけ医」であるかどうかの判断基準にはなりません。患者は普段からちょくちょく診てもらう「行きつけの医師」のことを「かかりつけ医」とイメージしているのでしょう。
 それでは、医師側はどう考えているのでしょうか。かかりつけ医について、本誌の尼医ニュースの「かかりつけ医について(連載3)」で、朝田副会長は「私たち医師の方から患者さんへ『私は貴方のかかりつけ医です』と言ったことは一度もありません。下手をすれば『貴方のかかりつけ医は私だから、ほかのところに受診してはいけません』というように取られてしまうかもしれないからです」とコメントされておられます。医師は患者に対し「自分がかかりつけ医です」とは決して言わないということでしょう。
 医師が、かかりつけ医であることを表明せず、確認もしなければ、患者と医師の間には意思の一致があるとはみなし難く、「かかりつけ医」は一方通行の片思いのような存在に過ぎず、医師と患者との間に権利義務の関係は発生しません。
 患者が医師の診察を受け治療してもらう関係は、一般に医療契約(準委任契約)だとされています。別に契約書を交わさなくとも、医師と患者との間で治療をしましょう、治療を受けますという意思の合致が認められる行為があれば、医療契約を締結したものとみなされるのですが、現状の「かかりつけ医」制度では、医師と患者との間にはかかりつけ医契約の成立と見なされる意思の合致があるとは言えず、「かかりつけ医」と「かかりつけ患者」との間に何らかの契約関係が存在するとみることには無理があります。
 契約関係が存在しなければ、権利義務関係も生じません。これでは「かかりつけ医」は、患者にいかなる医療を提供する義務があるのか、応召義務や転医義務の範囲、注意義務の内容、程度などについて一般医と違いがあるのかなど、法律論としても論じようがありません。実際に、現状では「かかりつけ医」について法律論は皆無と言って良いと思います。
 このように医師と患者の関係を曖昧にして「何となくかかりつけ医」の状況を放置しておいてよいわけはありません。

「かかりつけ弁護士」(ホームロイヤー)と「かかりつけ医」

 私たちの弁護士会では「かかりつけ医」(ホームドクター)になぞらえて、「かかりつけ弁護士」とか「ホームロイヤー」と称し、その普及を目指しています。これは超高齢社会を迎えた我が国において、高齢者の法的ニーズに応えて、その日常生活を支援するためにオールマイテイに法的サービスを提供しようとするものです。そのためには弁護士への敷居を思いきって引き下げ、誰もが気軽に利用してもらえる新たの職域を開拓しようとするものです。その中身は高齢者を中心とした個人の財産管理、医療、福祉を含めてトータルで継続的な日常生活の支援を行うサービスを提供することであり、そのために福祉機関・医療機関などの専門機関との連携を目指すもので、いわば地域包括ケアの弁護士版と言って良いものです。
 ホームロイヤーの基本契約としては日常的な助言、相談、定期的な見守りなどが中心ですが、高齢者などのそれぞれのニーズに応じた多種多様な内容が盛り込まれることもあります。契約のオプションとしては、財産管理契約、任意後見契約や遺言の作成等があり、ホームロイヤーは、人生のラストステージの生き方まで相談に乗り、依頼者と共にライフプランを立て、さらには亡くなった後の死後事務手続き、葬儀埋葬も受任できます。このように「かかりつけ弁護士」と市民との間の契約は、その内容が明示され、権利義務関係も契約上明確になり、「かかりつけ弁護士」は継続的でトータルな支援が可能な制度になっています。
 弁護士の場合、ホームロイヤー契約は有償契約ですが、医師の場合は保険診療がメインなので、なかなか有償の契約を結ぶというのは難しいかも知れませんが、「かかりつけ医」と患者との間で合意の形成により医師と患者が「かかりつけ医」について共通認識を持ち、契約関係を成立させることは、今や喫緊の課題ではないでしょうか。

かかりつけ医契約のお勧め

 厚労省はかかりつけ医の定義を明確なものとすることを検討し始めています。かかりつけ医を登録制にして定額の診療報酬を支払う制度の検討もしているようです。登録制になればかかりつけ医契約は成立しているとみてよいでしょう。しかし、かかりつけ医の登録制は、医療費の抑制や医師へのフリーアクセスという国民皆保険制度の根底を揺るがせかねない恐れがあるとして反対論も強く、容易に制度化されそうにありません。 
 それでは医師はどうすべきか。地域包括ケアは地域の自主性や主体性に基づいて地域の特性に応じて作り上げるものとされています。かかりつけ医は地域包括ケアの「かなめ」であり、かかりつけ医の機能の推進は、地域の特性にしたがって、どんどん実行し、実現していくべきかと思います。
 そのために、かかりつけ医を志す医師はまず、日医の定義にある「最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」たるべく、研鑽を重ね、かかりつけ医としてのスキルを高める努力を行わなければならないと思います。私はかかりつけ医を専門とする診療所があってもよいと思います。
 かかりつけ医を目指す場合、「かかりつけ医」を標榜して宣伝することは、おそらく法規制に触れるので無理かと思いますが、自分がかかりつけ医として、患者にどのような医療を提供できるのか、かかりつけ医を持てばどのようなメリットがあるのかなどを積極的に公開し、患者に働きかけ、「かかりつけ医宣言」をしてみるのはどうでしょうか。患者が医師の考えに共感し、応じてくれれば、そこには立派な「かかりつけ医契約」が成立します。このことは他の医師へのフリーアクセスを阻害することにはならないと考えられます。
 しかし、かかりつけ医を持つかどうか、誰をかかりつけ医として選ぶのかは、もともと患者の方に選択権があります。しかし、かかりつけ医の契約は長期間に及ぶ継続的な関係であり、互いの信頼関係に基づく契約です。また、医師と患者の相性が合うかどうかも大事な点です。
 したがって、かかりつけ医になることを頼まれても、医師の方から都合によっては、お断りすることも差し支えないと考えられます。医師は継続的なかかりつけ医になることを拒否しても、個別の診療を拒否するわけではありませんから、医師法の応召義務に違反するものではないからです。

医師からのコメント

八田昌樹会長からのコメント

 川西先生、弁護士の立場から「かかりつけ医」に関しての考察をしていただきありがとうございます。また、「かかりつけ弁護士」「ホームロイヤー」の存在も初めて知りました。
 「かかりつけ医」について、確かにオーソライズされた明確な定義はありませんが、日本医師会は「かかりつけ医とは、『なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師』」と定義しています。しかし、連載8コメントで大隈先生の言われるようにこの定義をすべて満たす医師が居るのかという疑問もあります。また、医師、患者さん、介護を含む多職種から見た「かかりつけ医」の定義はそれぞれ異なっています。我々医師はこの定義に値する医師であるために研鑚をしています。厚労省が明確な定義や制度化を図るのは構いませんが、最近「かかりつけ医」という言葉が独り歩きしているのではないでしょうか。「かかりつけ医」というのは、我々医師の間では以前から「医師―患者関係」の中でずっと存在してきたことであり、契約関係を結ぶようなものではないと考えています。
 患者さんにとっては、行きつけの医師で何となくかかりつけ医で構わないし、医師は地域包括ケアの中で医師としての研鑚を重ねながら、多職種との連携を構築していくことが重要であると考えます。

黒田佳治先生からのコメント

 これから高齢化が進む世の中における「かかりつけ医」に関して高齢者に対してトータルで継続的な医療サービスを提供できる「かかりつけ医像」の確立の必要性を書かれています。「かかりつけ医」、「かかりつけ患者」の契約関係に関して法律論では一般医とかかりつけ医の間に違いは皆無の状態であるとのことです。ホームロイヤーは有償契約で成り立ちますがホームドクターは保険診療のため有償契約を結ぶことが困難です。日本医師会のかかりつけ医の定義に基づき「かかりつけ医」を標榜、宣言し自分が提供できる医療サービス、メリットを公表して共感し応じてくれる患者さんがいれば「かかりつけ医契約」が成立します。かかりつけ医を持つか、誰をかかりつけ医とするかは患者の選択権で、継続的に良好な医師―患者関係を持ちお互いの信頼関係、相性などを踏まえ診療を進めることで、医療提供側からも「かかりつけ患者」を選択するのは医師法の応召義務に違反するものではないとのことです。かかりつけ患者さんに対して「最新の医療情報に熟知し必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」地域包括ケアシステムの要となる医師が「かかりつけ医」である必要性を改めて感じました。

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